小児血液腫瘍科

診療科の特色

小児血液腫瘍科は、小児の白血病、リンパ腫、固形腫瘍といったいわゆる「小児がん」の患者さん、あるいは血液疾患を発症した患者さん、それに造血細胞移植が必要な疾患、例えば先天性免疫不全や先天性代謝異常症の患者さんの診療をしています。造血細胞移植ができる専門の病棟で、薬剤による化学療法を行っています。必要な患者さんには造血細胞移植を施し、手術が必要な固形腫瘍などの患者さんは当院小児外科あるいは小児脳神経外科と協同で治療に当たっています。

診断に必要な生検を行う小児外科医師や小児脳神経外科医師、病理組織診断を行う病理科医師、画像診断を行う放射線科医師といった医師達と定期的に話し合いをしながら治療をしています。また治療の際に問題となる副作用、例えば心臓や呼吸器あるいはホルモン関係の副作用については小児循環器科や総合診療科の医師に相談しながら対応しています。看護師、臨床心理士、チャイルドライフスペシャリスト、理学療法士、言語療法士、病棟保育士といった患者さんと直接接触するスタッフあるいは薬剤師、臨床検査技師、放射線技師、栄養士といったスタッフと定期的に会議を開きながらグループで診療をしています。

当院に紹介される急性白血病の患者さんの人数が多くなり、造血細胞移植の患者さんに対応するのが難しくなり、2018年からは急性白血病の患者さんの一部は総合診療科にも入院するようになりました。

主な診療対象疾患

  1. いわゆる「小児がん」
    1. 造血器腫瘍
      急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群、ランゲルハンス細胞組織球症など
    2. 固形腫瘍
      神経芽腫、肝芽腫、腎芽腫(Wilms腫瘍)、横紋筋肉腫、胚細胞性腫瘍、脳腫瘍など
  2. 血液疾患
    1. 主として貧血をきたす赤血球の疾患
      鉄欠乏性貧血、ビタミンB12/葉酸欠乏性貧血、遺伝性球状赤血球症、自己免疫性溶血性貧血、赤血球酵素異常症による溶血性貧血、ヘモグロビン異常症、サラセミアなど
    2. 主として白血球のなかの好中球数だけが低くなる白血球の疾患
      先天性好中球減少症、乳児自己免疫性好中球減少症(慢性良性好中球減少症)など
    3. 血小板数が低くなり出血傾向をきたす血小板の疾患
      免疫性血小板減少症(特発性血小板減少性紫斑病)など
    4. 貧血、血小板数減少、好中球数減少をきたす造血不全(ぞうけつふぜん)
      再生不良性貧血、その他の後天性造血不全、先天性造血不全症候群(ダイアモンド・ブラックファン貧血、ファンコニ貧血)など
    5. 出血を止める凝固たんぱくが生まれつき足りない凝固異常症
      血友病、von Willebrand病(フォンウィルブランド病)など
    6. その他
      血球貪食症候群など
  3. 先天性免疫不全、特に造血細胞移植が必要な疾患
    複合免疫不全症、Wiskott-Aldrich症候群(ウィスコット・アルドリッチ症候群)、Ataxia-Teleangiectasia(毛細血管拡張性運動失調症、AT)、X連鎖リンパ増殖症候群、自己免疫性リンパ増殖症候群、家族性血球貪食リンパ組織球増多症候群(家族性血球貪食症候群/血球貪食性リンパ組織球症)、慢性肉芽腫症、慢性活動性EBウイルス感染症など
  4. 先天性代謝異常症、特に造血細胞移植が必要な疾患
    ムコ多糖症、Gaucher 病、副腎白質ジストロフィーなど

治療内容等

  1. いわゆる「小児がん」の診断と治療のながれ
    急性白血病や悪性リンパ腫あるいは神経芽腫といった固形腫瘍、すなわち「小児がん」の患者さんの人数は多くありません。わが国ではおよそ年間2000人が「小児がん」を発症しています。茨城県では年間30人から50人の患者さんが「小児がん」を発症すると推定されます。発症する患者さんの人数は多くありません。また他の疾患に比べると治療自体の副作用が強く出ます。以上の理由から私達の施設だけで治療法を明らかにしていくのは困難です。そのため患者さんに「多施設共同臨床研究」に参加してもらい、治療にあたるのが望ましいとされています。専門診療施設の医師が集まり診療グループを形成し、同一の治療法式で患者さんの診断や治療に当たり、患者さんの経過をまとめ、治療法の問題点を明らかにし、次の治療研究を計画するといった流れです。1980年代から続く「多施設共同臨床研究」で小児の急性白血病や固形腫瘍の治療法は大きく進歩してきました。
    私たち小児血液腫瘍科は、白血病やリンパ腫、固形腫瘍の患者さんについては日本小児がん研究グループ(Japan Children’s Cancer Group, JCCG)の「多施設共同臨床研究」に基づいて治療をします。説明のうえで同意を得てから治療を始めます。診断と治療においてJCCGの中央診断と登録、余剰検体の保存、治療研究に関する説明と同意といった手順が必要です。
    「多施設共同臨床研究」が実施されていない疾患の患者さんについては過去の医学論文や専門家の意見を参考に治療法を決めて診療しています。

    最初に診断名を決める検査、病気が体のどの部分にあるかを見る検査を行います。血液検査に加えて、エコー検査、CT検査、MRI検査といった画像検査、骨の中にある骨髄を調べる骨髄検査(こつずいけんさ、マルク)、腫瘍の一部を採取して調べる生検(せいけん)をします。痛みや恐怖を伴う検査の際には、お薬で痛みがでないようにします。得られた骨髄液や腫瘍組織を、顕微鏡やフローサイトメトリー法や遺伝子検査で調べます。こうして診断名や治りやすさを決めます。
    点滴のルートから治療薬を点滴することが多いので、胸の中の太い血管に中心静脈カテーテルを留置します。この中心静脈カテーテルからは採血ができますし、栄養が不十分な時には高カロリー輸液もできます。
    病名が分かり、病気の広がりが分かれば治療薬が決まります。「抗がん剤」と呼ばれる薬剤を複数組み合わせて点滴から投与する「化学療法」が一般的です。治療期間は疾患によって異なります。5日から35日の治療期間からなる「化学療法」を複数回行います。

    治療薬により吐き気、脱毛、下痢、口内炎が起きます。吐き気は予防薬でかなり予防できます。脱毛は治療が終われば治ってきます。下痢や口内炎は、治療が終了してから数日から2週間続きます。ひどければ痛み止めをもちいて和らげることができます。
    白血病自体により正常な白血球あるいは赤血球、血小板が減ります。ところが一方、治療薬によっても血球数が下がります。まず白血球数が低下して免疫力が低下します。口の中、食道、胃腸、肺あるいは肝臓、膀胱にカビが生えることがあります。ニューモシスチス、カンジダ、アスペルギルスといったカビです。ニューモシスチスを予防する内服薬、カンジダを予防する内服薬を処方して予防します。アスペルギルスを予防するにはカビの胞子を吸い込ませないように清潔な部屋に収容しています。清潔隔離といいます。その際には加熱食を提供しています。白血球数が減ると口の中や腸の中のばい菌が血液中に入り込む発熱性好中球減少症や敗血症が問題となります。抗生物質を点滴ルートから投与して治療をします。治療により血小板数が減ると出血しやすくなります。数日おきに血小板を輸血して出血を予防します。また赤血球が減ると貧血となります。赤血球を輸血して貧血を是正します。
    治療終了後2週間から3週間で血球数は回復してきます。この間は輸血、発熱、口内炎、抗生物質による治療、加熱食、清潔隔離で少し大変です。

    固形腫瘍の患者さんは、小児外科医や脳神経外科医と連携して治療にあたっています。化学療法や放射線照射を担当しています。腫瘍が小さくなり、切除術が可能となったら小児外科医に腫瘍を切除してもらいます。切除術後も化学療法が続きます。化学療法の薬剤を増やすと、効き目が増しますが、血球の回復が悪くなります。そのため自分の造血細胞をあらかじめ凍結して保存しておき、大量の化学療法の後に、保存されていた造血細胞を戻す、いわゆる「自家造血細胞移植併用大量化学療法」を実施することがあります。

    なお2018年4月から2019年3月までの新規の患者様の内訳は19人でした。移植目的の紹介1名、初発の患者様が18名、再発をして再入院となった患者様は1名でした。初発の患者様の疾患の内訳は、急性リンパ性白血病3名、急性混合型白血病1名、急性骨髄性白血病2名、慢性骨髄単球性白血病1名、慢性骨髄性白血病2名、若年性骨髄単球性白血病1名、末梢性T細胞リンパ腫2名、腎芽腫1名、神経芽腫1名、上衣腫1名、星細胞腫1名、卵黄嚢腫1名、一過性骨髄異常増殖症1名でした。
  2. 悪性ではない疾患に対する治療
    血液検査や骨髄検査で診断をします。診断に遺伝子検査を必要とすることがあります。その際には国内外の研究者に検体を送付して診断してもらうことがあります。まれな疾患が多く、専門医といえども一生に一度も経験しない疾患が多数あります。全国や国外のエキスパートに相談しながら診断や治療にあたることもしばしばあります。
    鉄欠乏性貧血やビタミンB12/葉酸欠乏性貧血では鉄やビタミンが足りているか血液検査で調べ、胃腸に病気がないかを調べます。遺伝子検査が診断に必要な場合もあります。遺伝性球状赤血球症では赤血球の膜が丈夫かどうか調べる検査をします。赤血球へ免疫が向かい赤血球数が低下する自己免疫性溶血性貧血ではクームス試験が診断に重要です。ステロイドホルモンで治療をします。赤血球酵素異常症による溶血性貧血では遺伝子検査が診断に必要です。溶血を起こしやすくする内服薬を避けることが重要です。ヘモグロビン異常症やサラセミアでは遺伝子検査が診断に重要です。輸血が必要な時には造血細胞移植が治療に必須です。
    重症の感染症を繰り返す先天性好中球減少症の患者さんには、造血細胞移植が必要です。移植まではG-CSFを投与します。好中球数を一時的に増やして重症感染症を予防します。乳児自己免疫性好中球減少症(慢性良性好中球減少症)は感染症やワクチンの後に好中球数が減ってしまう病気です。抗好中球抗体が検出されます。重症の感染症を起こすことは稀です。自然に治ります。
    小児の免疫性血小板減少症は自然に治る可能性が高いことが知られています。血小板数が低い間に重症の出血を起こさないように対処することが肝要です。血小板数を上げる作用のあるガンマグロブリン又はステロイドホルモンを投与して治療します。治療への効きがよくなく6か月以上経過し慢性化した患者様には、エルトロンボパグやリツキシマブによる治療を行っています。
    造血不全は赤血球の減少による貧血、血小板数の減少による出血傾向、好中球減数の減少による感染症といった症状を呈します。貧血と血小板数の減少には輸血が必要です。しかし輸血には副作用があります続けるわけにはいきません。輸血を避けるために特別な治療を要します。また造血不全には進行していく疾患や白血病を発症してしまう疾患があります。
    先天性の造血不全には、ファンコニ貧血、ダイアモンド・ブラックファン貧血があります。血球の減少が進行し、輸血が必要になれば造血細胞移植を行います。移植前の前処置は疾患毎に異なります。
    後天性の造血不全には、再生不良性貧血があります。輸血が必要な再生不良性貧血の患者さんには、同種造血細胞移植が必要です。ドナーが見つからなければ免疫抑制療法を施行しています。輸血により鉄がたまるので除鉄剤を処方しています。造血を促す新しい薬剤エルトロンボパグ、軽症型におけるシクロスポリンを用いた免疫抑制療法がガイドラインに記載されました。以前よりも治療方法が多彩になってきました。
    血液凝固因子が欠乏している血友病の患者様には凝固因子を補充して治療しています。以前は出血時に補充する出血時補充療法が行われていました。最近では定期的に補充して関節への出血を予防する一次定期補充療法が主流です。在宅自己注射療法も積極的に行っています。
    先天性免疫不全症や先天性代謝異常症に対しては同種骨髄移植を施行します。悪性の疾患ではない患者さんの造血細胞移植では移植後の副作用を減らすために、後述する前処置が白血病の患者さんにおけるよりも減らされています。先天性免疫不全症の患者さんの造血細胞移植には特別な留意点があります。当院で造血細胞移植を実施するのが難しい場合は別の病院に紹介することがあります。先天性代謝異常症についても同様ですが、当院ではかなり経験を積んできましたので最近では紹介することはなくなりました。
  3. 造血細胞移植
    白血病やリンパ腫、あるいは固形腫瘍において、化学療法が無効、再発した場合、化学療法の効果が乏しいタイプであるといった状況ではガイドラインに従い同種造血細胞移植を行います。また造血不全や免疫不全あるいは先天性代謝異常症にも根治を目指して同種造血細胞移植をします。造血細胞移植専用の完全無菌室2床、準無菌室4床を有し、骨髄バンク・臍帯血バンクの移植認定病院、日本造血細胞移植学会の移植施設認定基準カテゴリー1を取得しております。また当科には造血細胞移植学会認定医が在籍しており診療にあたっております。
    同種造血細胞移植は、
    1. HLAのあうドナーの選定
    2. 抗がん剤もしくは放射線照射からなる前処置
    3. ドナーからの造血細胞の輸注
    4. 移植後の感染症の予防
    5. 移植に伴う免疫系の副作用、GVHDの予防
    6. 移植に伴うその他の副作用の予防
    からなる治療です。
    HLAはいわば白血球の血液型です。免疫担当細胞が他人と自分とを区別する目印です。造血細胞移植ではHLAがあったドナーから造血細胞をいただきます。骨に骨髄採取針を刺して骨髄液を採取し輸注する骨髄移植、G-CSFをドナーに投与したのちにドナーの血管から末梢血造血細胞を採取し輸注する末梢血造血細胞移植、あらかじめ凍結保存してある新生児臍帯血液中の造血細胞を輸注する臍帯血移植があります。カテーテルから輸血のように造血細胞を輸注します。
    家族のHLAを調べて、HLAが合う方がいれば、家族から造血細胞をもらいます。いなければ骨髄バンクに登録して、善意のドナーから骨髄あるいは末梢血造血細胞をもらいます。骨髄バンクにドナーがいなければ臍帯血バンクでドナーとなる臍帯血を探します。
    移植の際には、ドナーの造血細胞をそのまま輸注しても造血細胞は生着しません。患者さんの免疫力が低下し、骨髄が空になっていないと、造血細胞が排除されてしまいます。そのために強い前処置が必要です。抗がん剤や放射線照射からなる治療です。6日から12日程度かかります。
    前処置が終わったら無菌室に入室して、造血細胞の輸注が始まります。GVHDという免疫の副作用を予防する薬剤、細菌や真菌(カビ)を予防する薬剤の投与が続きます。20日から30日後に生着します。そのころからGVHDが起き始めます。
    下に当院における急性白血病の移植成績を示す生存曲線を示しました。HLAのタイピング技術の向上、真菌(カビ)の新しい治療薬、細菌の新しい治療薬、GVHDの新しい予防薬、副作用を予防する新しい薬剤、GVHDの新しい治療薬といった医学の進歩により移植後の生存率は徐々に上がってきています。
    生存曲線
    図 当院での急性白血病患者様の移植後の生存曲線です。
    横軸が移植後の日数、縦軸が生存率です。
    最近ではHLAが半分しか合っていない家族内のドナー、ハプロドナーから造血細胞をもらい移植するハプロ移植も行われるようになってきました。骨髄バンクと臍帯血バンクにドナーがいなくても家族内のドナーから移植ができるメリットがあります。移植までの準備期間を短くできます。当院でも2010年から始めました。
    また移植での晩期の副作用を軽減するために前処置の薬剤や放射線量を減量したいわゆるミニ移植、毒性軽減前処置にも取り組んでいます。
    当科のスタッフは、造血細胞移植学会に参加するだけではなく、移植成績調査を用いた解析をする造血細胞移植学会ワーキングループや造血細胞移植関連班会議にも積極的に参加し、積極的に新しい知見を取り入れております。
    2018年4月から2019年3月には11例12件の造血細胞移植を行いました。白血病の5例、リンパ腫の2例、神経芽腫の2例、ベータサラセミアの1例、副腎白質ジストロフィーの1例総計11例です。白血病とリンパ腫の患者さんには全例で全身放射線照射の照射量を減らした毒性軽減前処置を施しました。副腎白質ジストロフィーの患者さんは、骨髄バンクのドナーからの移植後に拒絶となり、臍帯血バンクの臍帯血を移植しました。無事生着しました。
  4. 家族宿泊施設
    遠方より来院され長期入院される患者さんのご家族のために慢性疾患児家族宿泊施設「ファミリ-ハウス」があります。
  5. 訪問学級
    入院期間が長くなり、学校に通学できなくなることがあります。そのために茨城県立友部特別支援学校の院内訪問学級があります。学童期の入院患者さんは、院内訪問学級に在籍して勉強を続けています。
  6. 病棟の環境
    血液腫瘍患者主体の病棟を有し、プレイルームがあり、病棟専属の保育士が勤務しています。また処置の前、診断時、手術や移植の際には看護師やチャイルドライフスペシャリストが積極的にかかわって患者様に説明をしています。
  7. 小児慢性特定疾病医療費助成制度
    医療費が高額になることがあります。そのため一部の疾患には国からの補助である小児慢性特定疾病医療費助成制度があります。詳しくは生育在宅支援室が説明をします。
  8. セカンドオピニオン
    希望される患者様にはセカンドオピニオンの医師を紹介しています。白血病の発症時には十分な余裕がないために治療開始後になってしまうことがあります。
  9. CCSフォローアップ
    最近は「小児がん」の経過が良くなり、「治った」あとの生活が重要であると強調されるようになりました。「治った」あとも出てくる副作用への対処、あるいは自立した生活を確立できるよう支援をしています。
  10. 遺伝子解析
    院内の小児がん研究所にある遺伝子解析装置を用いて診断時に得られた白血病や腫瘍の検体の解析をしています。発症のメカニズム、病気の治りやすさを決める遺伝子の変化を調べる研究をしています。