先輩からのメッセージ MESSAGE

MESSAGE - 09
豊富な症例と
万全なバックアップ体制で
安心して学ぶことができます
小児救急・小児総合診療科
小児超音波診断・研修センター
弘野 浩司
数多くの超音波診断を担

私は初期研修を弘前市内の病院で行い、その後、母校である弘前大学の小児科に入局しました。後期研修を終えた後に大学院で博士号を取得し、小児超音波の普及に携わりたく、水戸の地にやってきました。

2020年に当院に入職してからは、希望していた内診と総合診療科を任せていただき、昨年の4月より小児超音波診断・研修センターに配属されました。

現在は常勤の超音波ドクターとして日中のほぼ全ての超音波診断を担当しており、同時に研修生にエコーの指導をしています。また、院内の研修生はもちろん、院外から来ている先生もいっぱいいらっしゃるので、その先生がたに指導するというのも大きな仕事の一つです。

きっかけは悪性リンパ腫の患者さ

私が小児科医になって2年目、大学病院をローテートしていた時に、悪性リンパ腫の患者さんが来たんです。もともとその子はお腹がずっと張っているということで近くの病院を受診していて、そこでレントゲンを撮って便秘症という診断を受けていました。ただ、やっぱりおかしいっていうことで別の病院に行って、そこのドクターが真っ先に超音波検査をしたところ「造影CTとってないけど、これはおかしいから先に事前に連絡しておくね」と私に連絡をくださりました。その後、造影CTを撮ったところ「悪性リンパ腫が疑われる」と言われて、すごくショックを受けました。便秘症というマネジメントでお腹の中を直接見ていなかった故に、ステージがすごく上がっている状態で大学病院に来ることになってしまったんです。

当時、腸管の中はガスがあるので超音波検査はできないと習っていました。
というのも、超音波は水に対してはものすごく強いのですが、ガスや骨は通過できないようになっているため、ガスでまみれているお腹の中に超音波をあてても、詳細を見ることはできないというのが当然の考えだったんです。私もそのイメージでいたので、ルーティーンでエコーをお腹の中をあてることはしていませんでした。ですから、自身が担当していてもそのようなマネジメントを行っていたかもしれないと。

あとは、大学病院に来てから私がその子の担当になったのですが、とてもいい子で、治療でつらい思いをしている中すごく慕ってくれ、責められるのではなく非常に感謝をされたんです。そのこともきっかけの一つとなって、小児の超音波検査に興味を持ちました。

こどもに優しい超音波診検

例えば、腹痛で救急外来に来る患者さんで、圧倒的に多いのは急性胃腸炎だったりとか、便秘症ではあるんですけど、その中にものすごい重症例が混ざっていることがあります。腸回転異常症とか幽門狭窄症だとか、純粋に胃に穴が空いたとか、そういういろいろな病気があるんですけれども、最初は見分けが全くつかないんです。
あとは胃腸炎症状があれば、胃腸炎としての診断は間違ってはないんですけれども、胃腸炎プラス何かないかというところが大問題になってきます。圧倒的にほとんどが軽症なので、鼻水や熱がちょっと出たということが大半なんですけれども、その中に本物が混ざり込んでいるんですよね。

その本物を見つける時に、大人であれば「もっと痛くなってきた」「ここが痛いと」と言えるんですけれども、子どもの場合だとただ不機嫌だとか、ミルクを飲まないとか、押しても痛くないって言ったりするんです。お腹の中を直接見ることもできないので、一抹の不安がありつつも、悪くなったら再度来ていただくというマネジメントしかできず、家に帰してしまうんです。でも、その中に本物が混ざっていて、ものすごく重症化した状態で病院に戻ってくる例がありまして、そういう時に当直をしているとものすごく憤りを感じるんです。

たとえば、レントゲンを撮って便秘の有無やガス像を見ることはできるのですが、お腹の中そのものを確認することはできません。
お腹の中を診る時に、選択肢として放射線被曝を伴うCTと、磁石の力できれいに診ることが可能なMRIの2つがあります。CT写真は細胞分裂が盛んであればあるほど細胞傷害を起こしてしまうので、基本的には小児にはあまり頻回に使うことができません。また、MRIは1回撮るのに30分ぐらいかかるため、撮影中に動かないように静脈麻酔を使って眠ってもらう必要があります。その間呼吸が止まってしまうケースもあるため、ずっと立ち会う必要がありますし、薬をどんどん投与しなければいけないのでリスクが高く、頻繁に撮れるものではありません。

そうなると、安全にお腹の中を見るという選択肢がもう実質的には超音波しかないんです。ですが、超音波の文化はまだ十分に普及しておらず、小児科はそのような状況の中でも最も遅れているため、お腹の中を見るということが殆どされていません。

超音波検査をやりたくて水戸

大学院生の時は、周りに超音波検査をやっているドクターがいなかったので、2カ月に1回ぐらいのスパンで東京に来て講習会に参加していました。受講料は高額ですし、さらに前泊のホテル代や交通費も払う必要があったので、1回あたり十数万は飛んでいました。それを20回程度繰り返して参加しているので、合計200万円以上は費やしたと思います。
ただそのようにやっていても、基本的には正常のモデルでしか教えてくれないので、やはり習得するには限界があるんですよね。

そうこうしているうちに、私が超音波を好きということを良く知っていた後輩が、この茨城で、「丸一日腸重積だけの超音波の学会がある」と教えてくれたんです。さすがに一日腸重積はやらないだろうと思って参加したら、本当に丸一日腸重積の講習会をしていて、その時に話されていたのが今の浅井センター長だったんです。私は山本五十六の標語が好きで、後輩に何かを教える時もそれがモットーだったんですけど、浅井センター長が全く同じスライドを出していたんです。それで、基本方針が合いそうだなと感じて、大学院が終わったらいつかそういうとこで勉強したいなと思っていました。

無事に大学院を卒業し、学位審査が終わった10月ごろに、浅井センター長にメールを出しました。ホームページを見たらもう医師募集は終わっていて、全然年度内でも何でもない中途半端な時期だったので、「募集をしていないのは知っていますけど、どうですか」とダメ元で送りました。その後、当院へ見学に行った時に浅井センター長と、須磨﨑前病院長と話す機会がありまして、その場で茨城に来た理由を伝えたところ、「それだったら一緒に働いていこう」と当院への入職が決まりました。

豊富な症例と万全なバックアップ体

私はやっぱり心は青森に居て、情報そのものや教育の機会がないことの苦しさをよく知っているんです。相談しにくいというレベルではなくて、そもそも相談する人がゼロという状態って絶望感が尋常じゃないんですよ。「あの先生怖いから電話するの嫌だな」とか「メールするのは大変だから」ということではなくて、いないんです。

ですから、そういう経験を次の世代に引き継ぐ気はありません。先に体系的に教えて、症例が来たら「さっき教えたこの中の今回はこれが該当するよね」という形で教えたいです。泳ぎ方を教えて海に落としたい。海に先に落としてもがいてもらうっていうのは、私は好きではなくて、どう泳げば泳げるようになるかというシステムは出来上がっているので、先に教えてから泳がせたらストレスがない。
当院の超音波センターでの基本スタンスとしては、最初は先に教えて、患者さんが来る前に相談をして、できなければすぐ私が代わるという方法を取っています。ですので、一人ぼっちで検査をして、そのまま患者さんが帰るということはまずないです。もし時間の関係上一人で検査してもらった場合でも、必ず画像は全部チェックしています。

小児科医がバーンアウトする要因の一つは、負荷が強すぎるからだと思っています。例えば当院の超音波センターの研修であれば、軽症から重症までさまざまな症例の患者さんが来るのですが、ある程度重たい患者さんが来た時に、それがポジティブになるか、それともストレスになるかというのは教育体制次第だと思います。
もししっかりとしたバックアップが付いているんだったら、最重症例が来たほうが勉強になるんです。逆に「まず一人でアセスメントしてね」と言われたら、できるだけ来ないでほしいという、後ろ向きな気持ちになってしまうんですね。だんだん萎縮して無駄なストレスを感じてしまう。
ですので先に全部教えてあげるんです。もちろん、それでもできないことはありますけれども、最初から分かっている落とし穴や、定型的なことは先に教えておくべきだと思っています。

「教える」よりも「共有する」というスタン

小児科医になったばかりの頃のまだ未熟だった自分を忘れると、結局今のレベルで話してしまって、伝わらなくなると思うんです。ですので、何かを教える時は必ず、エージェント、小児科医2年目の自分を配置するようにしています。

講演の時もハンズオンセミナーの時も、私が知っていることを教えてマウントを取るのは全く意味がないことなので、あくまでも知っていることを共有するようなスタンスをとっています。その際も、一番最底辺の自分を置いておいて、その自分が頷いていれば、多分教育は成り立っているんじゃないかなと。

分からなくてもがいたっていうことをポジティブに転化するのであれば、それを生かさないとダメですし、それを忘れたらただ苦しかったという経験になってしまいます。教育を全く受けられなかったことを武器にできるとしたら、その方法が良いのかなと思いながら指導しています。